人形業界には「節句人形アドバイザー」という資格制度があります。これは、節句行事や節句人形全般に関する豊富な知識を持った販売員を、社団法人日本人形協会が試験により審査し認定する制度です。平成20年度より毎年1回「節句人形アドバイザー認定試験」が行われています。 節句人形アドバイザーは、(社)日本人形協会認定の資格者であり、節句行事や節句人形に関する豊富な知識、制作工程、手法技術、歴史的背景まで、節句人形のことなら何でも熟知している、公的に認められた節句人形販売のプロです。
当店では、下記の3名が「節句人形アドバイザー」の資格を所持しております。
- 大隅彰啓 (平成20年度資格取得)
- 堀江伸冶 (平成21年度資格取得)
- 羽深俊冶 (平成22年度資格取得)
雛人形、五月人形をはじめ、お節句についてなど、お客様にはこれまで以上に分かりやすいアドバイスをさせて頂けるものと思います。同時に、より一層知識を深めて行くことを目指しております。当店の節句人形アドバイザーは、資格証カードを身につけております。どうぞお気軽にご相談ください。日本全国の信頼ある人形店には、必ず節句人形アドバイザーが在籍しております。
節句人形アドバイザーの詳細につきましては、日本人形協会のホームページをご覧ください。
節句人形研修の模様
寿月すみたやが加盟している全日本人形専門店チェーン(通称:人形チェーン)では、会員店が更なる専門知識を身に付け、お客様に的確な商品説明ができるように、毎年「節句人形」に関する研修会を行っております。これまでに当店が参加してきた研修会の一部をご紹介致します。
人形工房と屏風工房見学(東京都)
2012年10月10日。東京スカイツリーのお膝元で伝統工芸品の製造を続けている2つの工房を訪ねました。最初に伺ったのは「幸一光(こういっこう)」の作名で名高い「松崎人形」さん。人形業界でも珍しい、衣裳着人形と木目込人形の両方を手がける人形工房です。
東武伊勢崎線・西新井駅近くの足立区栗原の工房では、何人もの職人さんたちがそれぞれに、様々なお人形を制作されていました。 以前、工房を拝見させて頂いた所沢市の倉片人形さんでは、職人さんたちが皆同じ作業をされていて、その工程が終わると全員で次の工程に進んむ「機動力のチーム」という感じでしたが、松崎人形さんでは、個人々が全く別の作品を制作されていて、各人が自分の専門分野を持っている「個人技のチーム」のように感じました。
松崎人形さんをあとにした我々一行は、その足で東京スカイツリーのほぼ真下、墨田区向島の片岡屏風店さんへ。片岡屏風店さんは、その名の通り雛人形や五月人形に使用するものから、インテリアとしてのオリジナル製品まで、数々の屏風を製造されています。特に人形界で「本装」と呼ばれる「紙のちょうつがい」を使用した作品が有名です。本装屏風は、360度に折れ曲がるように出来ていて、屏風の折れ目の所に3~4箇所「切れ込み」があるのが特徴です。出来上がった屏風を見ただけでは分かりにくい構造を、社長さんが骨組の見本を片手に流暢に説明してくださいました。 一枚の紙が屏風の枠と枠をつないでいるだけで、木の枠が固定されている技術に感動した次第です。和紙の蝶番の強度もさることながら、金沢箔や絵紙などの綺麗な装飾が施された屏風の表面には、その下に5枚もの下紙が工夫されて貼られていることも驚きでした。
大山祇神社・宝物館見学(今治市)
2011年10月。瀬戸内海に浮かぶ、愛媛県・大三島の大山祇神社(おおやまずみじんじゃ)を訪れました。こちらの宝物館には、源義経奉納とされる「赤糸縅鎧」をはじめ河野通信奉納の紺糸縅鎧、大三島の鶴姫が着用したとされる重文の女性用鎧など、数々の国宝、重要文化財が展示されており、国内有数の内容を誇っています。
鎧は殆どが「奉納鎧」と呼ばれる胴部分のみの品ですが、これは武士が戦勝を祈願して神社に納めたものです。真新しい鎧を納めた場合もあれば、実際に戦で使用した鎧を「縁起が良い」として納めた場合もあるようです。特に大山祇神社は武運の神社ということで、数多くの奉納鎧が集まったとのことでした。
また、新しく豪華な鎧を奉納するのは、それだけ自分に力や富があるということを他の武将達に示すためでもあったようです。8年ほど前にも一度訪れていますが、今回は江戸甲冑師の第一人者・加藤一冑先生に同行して頂きました関係で、前回は見過ごしてしまった鎧の特徴や時代考証を、実物を目の前にしてじっくりと伺うことができました。
大山祇神社の入口です。この奥に宝物館があります。 宝物館にて加藤一冑先生の説明を聞く参加者たち。 国宝級の鎧を一度にこれだけ目にすることができるのは、大山祇神社以外にはありません。五月人形の鎧兜を取り扱う者として、非常に有意義な研修でありました。
雛段製造工房見学(善通寺市)
2011年10月。大山祇神社見学の翌日、香川県・善通寺市にある雛具木工品メーカー「不二鋼業」さんを訪ねました。不二鋼業さんは、雛人形や五月人形の飾り台、屏風などを専門に作っているメーカーさんです。
今回は特別に工場内を見学させて頂き、木製品の製造工程を勉強させて頂きました。
いつも完成品しか目にすることのない雛具の製造工程を見ることが出来たのは、その製品を販売する者としてたいへん参考になりました。
今回、見学をさせて頂いて気づいたのは、思っていた以上に手作業による工程が多いのだということです。
その年に誕生されたお子さんの数がMAXの需要である節句品は、車や家電製品に比べて生産数が圧倒的に少ないのが現状ですので、中々オートメーション化が難しいのも事実です。
しかしながら、節句品のメーカーさんが手作業にこだわる理由はそれだけではありません。
お節句の品は、日々の生活の中で使って消費する品物ではなく、お祝の品として飾って楽しむものであるからこそ、細部にまで目を届かせ、各工程でチェックをする必要があるのです。
不二鋼業さんの作品は、当店でも取り扱いをさせて頂いております。その出来栄えを店頭でご覧頂ければ幸いです。
平積みされた飾台の枠。塗装前の品です。 塗装前にもう一度ヤスリをかけて表面を滑らかにします。 下地塗り中の屏風枠。青い壁の向こう側で機械による塗料の吹き付けが行われています。そのあと乾燥室を通り、また吹き付けの所へ戻って来ます。この作業を3回繰り返します。 下地塗りした屏風枠を研磨します。ラインを通すと自動的にヤスリがかかるようになっています。 研磨の後は、エアーで埃を丁寧に取り除きます。 上塗りの塗装室です。手前では今一度念入りに埃を取り除いています。その後、手作業による塗料の吹き付けが行われます。(奥側) ここでは、上塗り塗装した屏風枠に「ボカシ」を入れています。 屏風に絵を描く作業です。刺繍の上に金彩加工をしているところです。 仕上がった絵を屏風の枠に取りつけます。この後裏側に紙を貼って完成です。 出来上がった品から箱詰めされていきます。
雛人形工房見学と制作体験(所沢市)
2010年8月。埼玉県・所沢市の倉片人形さんにて、衣裳着雛人形の製造工程見学を開催しました。また、実際に雛人形の衣裳制作を体験させて頂きました。
工房では、従業員の方たちがてきぱきと作業をされています。
雛人形は期間毎の分業で作られます。お伺いした時は女雛の胴体部分を制作されていました。藁で作った胴体に、衣裳を着せつけていきます。 お姫さまのかたちが出来上がってきました。 職人さんに教えて頂き、我々も衣裳の制作を体験させて頂きました。
男雛の袖部分を作っています。出来上がった「袖(上段の両端)」を含めた男雛の衣裳です。パーツはばらばらになっています。 パーツを縫い合わせると、お殿様(男雛)の衣裳が出来上がります。
京都御所見学
2009年10月。京都御所を見学しました。現在、全国的に飾られている「おひなさま」は、京都御所の紫宸殿での儀式を再現したものです。紫宸殿は天皇陛下の即位礼など、重要な儀式を執り行う最も格式の高い正殿であり、お雛様の七段飾りにも用いられている「桜橘」も、この紫宸殿のお庭にあります。雛人形様式のルーツとも言える京都御所を実際に見学し、知ることは、おひなさまを取り扱う我々にとって必要不可欠な経験であり、お客様に雛人形の由来をご説明させて頂く上においても、非常に有意義な研修であったと思います。
京都御所の正門である「建礼門」です。現在は天皇が臨幸される時に開かれますが、近世においては「即位の礼」などの大礼儀式の時のみに開かれていました。 紫宸殿です。残念ながら、これより近くに寄ることはできません。
間口約33m、総檜造りの京都御所の象徴。そして「おひなさま」の舞台でもあります。紫宸殿の階段脇に配された「右近の橘(写真奥)」と「左近の桜(写真手前)」。おひなさまの雛段にも飾られています。秋でしたので花は咲いていません。 天皇の日常の御住居として使用された「清涼殿」。紫宸殿の北西にあります。部屋の中にある「昼御座」は、現代雛人形の親王台のモデルでしょうか。 紫宸殿東北にある小御所東側の「御池庭」です。小御所は、東宮御元服など様々な儀式に用いられました。また、北側の庭では蹴鞠なども催されました。 天皇の日常の御座所として用いられた御常御殿の「壺庭」に植された、紅梅と白梅。雛人形の世界では、桜橘に代わって用いられることがあります。
金彩刺繍工房見学(桐生市)
2008年10月。群馬県・桐生市の織物工房を見学しました。桐生は京都西陣と並ぶ、全国の金襴織物の生産地として知られています。市内には幾つもの金襴工房さんがあり、織物のみならず刺繍や金彩といった加工技術をも得意としています。現在、雛人形の衣裳には、刺繍や金彩など生地の上に加工を施した品に人気が集まっていますが、この研修ではその工程や技術を学ぶことができました。
ミシンと手作業で、細かい刺繍も手早く完成させていきます。 色糸とともに、6本の金糸を操作しての刺繍加工。 熟練の技から、見事な刺繍が出来上がります。 こちらは金彩加工の工房です。型紙を置いて、慎重に絵具を吹き付けていきます。 花の輪郭ができました。この上に何回にも分けて色を重ねていきます。 こちらは雛段や屏風に使用する木製ボードに金彩を描いています。 板の上にも綺麗に金彩が施されます。生地の金彩同様、こちらも更に色を乗せていきます。 描いた絵に金色の縁取りを施す時は、この転写シートを使います。 縁取りをつけることで、絵が更に鮮やかに輝きます。